しまづ幸広(日本共産党元衆議院議員)-浜岡原発廃炉、静岡から政治を変えよう
国会質問

質問日:2016年 3月 23日 第190国会 内閣委員会

成年後見制度の利用の促進に関する法律についての質問

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○島津委員 日本共産党の島津幸広です。

 提出された法案について幾つかお尋ねをしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 成年後見制度は、精神上の障害により判断能力が不十分とされた高齢者や障害者の法律行為や財産管理について、高齢者、障害者の権利擁護のために役割を発揮してきました。

 しかし、この間、障害者の権利に対する認識は国際的にも深まってきています。特に、二〇一四年、我が国も批准した障害者権利条約は、個人の自律の尊厳を基本原則として掲げて、その第十二条で、障害者が生活のあらゆる場面において他の者と平等に法的権利を享有すること、締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用するための適切な措置をとることとしています。

 これは、精神上の障害があることをもって一律に行為能力を制限することを否定したもの、要するに、自分のことを自分抜きでは決められない、誰もがみずから意思を決定することができるよう、必要な支援を可能な限り尽くすことを国や地方自治体、支援にかかわる全ての人々に求めたものと言えると思います。これはまた、世界的な流れにもなっている考え方です。

 この条約の立場に立って、現行の成年後見制度自体の見直し、改革が求められるべきだと考えますけれども、提案者の御認識をお聞かせください。

○大口委員 島津委員にお答えを申し上げます。

 まず、障害者権利条約との関係に照らし、現行成年後見制度自体の見直し、改革を求める議論が存在することは認識をしております。

 今回の法案は、現行の成年後見制度を踏まえつつ成年後見制度の利用を促進することを目的とするものでありますが、第三条の一項において、基本理念の内容として、成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと、成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重されるべきことを規定しております。

 また、第十一条の柱書きにおいては、基本的方針として、成年後見制度の利用促進に関する施策は、成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえ推進されるものと定めているということでございます。

 このように、本法案は、成年後見制度の運用を障害者権利条約の趣旨により沿ったものとしようとしているものでございます。

 また、第十一条の二号においては、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当な差別をされないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行う、こういうことも定めておりまして、約二百を超える権利制限、欠格事項、こういうものについてもしっかり検討していく、こういう内容でございます。

○島津委員 今、理念的なことをお答えになったわけですけれども、実際にはそれが今生かされていないと思うんですね。自分のことは自分抜きでは決められないということは、理念としては語られても、実践されていない。

 例えば、介護保険サービスについて、当事者の意思に基づくよりも、家族等が本人の意思を十分に確認することなく処遇を判断したり、あるいは、後見人等が、地域で暮らす権利や本人の意思を十分尊重しないまま、施設に入るか地域で居住するかを決定する、また、医療についても、本人ではなくて家族の承諾で済ませてしまう、こうしたことは広く今でも見られているわけです。

 ですから、これらは、意思決定の困難な本人について、意思決定するためにどのような支援をすべきかなどの具体的な指針なり体制なりが今整っていない、こういうことの結果だと思うんです。こうした具体的なことこそ今回改善、改革が求められているわけで、このことが必要なんじゃないでしょうか。具体的な問題として、どうでしょう。

○大口委員 今、社会保障審議会の障害者部会で、障害者総合支援法の施行三年後の見直しということで議論がなされていて、意思決定支援ガイドラインの作成、あるいは障害福祉サービスにおける意思決定支援、そしてまた入院中の精神障害者の意思決定支援、こういうものが議論の対象になっておるわけでございます。

 そのような状況の中で、御指摘のような意思決定をするための支援の改善、改革の方向性については、本法案においても明らかになっております。

 具体的には、先ほど述べた内容のほか、第十一条第一号において、基本方針として、成年後見制度を利用しまたは利用しようとする者の能力に応じたきめ細かな対応を可能とする観点から、成年後見制度のうち利用が少ない保佐及び補助の制度の利用を促進するための方策について検討を加え、必要な措置を講ずること、また、同法の第十一条五号においては、成年後見制度を利用しまたは利用しようとする者の自発的意思を尊重する観点から、任意後見制度が積極的に活用されるよう、その利用状況を検証し、任意後見制度が適切にかつ安心して利用されるために必要な制度の整備その他の必要な措置を講ずることを定めております。

 また、医療、介護等の件につきましては、医療、介護等に係る意思決定が困難な方に対し、その自発的意思を尊重しつつ、どう必要な医療、介護等を受けられるようにするかということは現場において重要な課題でありますので、さまざまな対応がなされていますが、この法案においては、これは第十一条の三号でありますが、成年被後見人等であって医療、介護等に係る意思決定が困難な者への支援のあり方について、成年後見人等の事務の範囲を含め検討を行うこととしております。

○島津委員 理念、これから検討ということなんですけれども、私、やはりそこに疑義があるんです。

 この法律は、あくまで現行の成年後見制度を前提にその利用の促進を図るものであって、現行の成年後見制度の見直しを行うものではないわけです。

 今の制度でどんな問題が起きているのか。利用件数の大半を占める成年後見類型では、判断能力について、自己の財産を管理、処分することができないと診断されると、法律行為の全てに代理、代行権限、同意、取消権が与えられます。しかも、これは、その人の障害が回復しない限りいわば死ぬまで継続される、途中で見直しの機会も与えられない。成年後見制度の累積利用件数はウナギ登りにふえているのですが、こうした仕組みが大きな原因ともなっているわけです。

 そういう中で起きているのが、後見監督等の事務の増大であり、不正行為の発生です。

 家庭裁判所による後見監督件数、これをお示し願えますか。

○村田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 平成二十六年の一月から十二月までの一年間に、後見等監督処分事件として家庭裁判所が成年後見人等に対して後見事務の報告を求めた件数は九万三千六百五十八件となっております。

 また、成年後見人等が弁護士等の専門職である場合には、おおむね一年に一回、後見人等から家庭裁判所に対して後見人としての報酬を決めるよう申し立てがされますが、その際、後見人等から後見事務についても報告を受けますので、後見人等の報酬付与申し立て事件も実質的には後見等監督の機能を有しております。平成二十六年一月から十二月までの後見人等の報酬付与申し立て事件数は七万六千四百二十件となっております。

 この二つを合わせますと、平成二十六年一月から十二月までの一年間に家庭裁判所が実質的に後見等監督を行った件数は十七万七十八件となります。

○島津委員 相当な件数があるわけです。

 年間の申し立て件数が三万件を超えている、累積する監督件数などに家裁の体制が追いついていないのが現状だと思うんです。特に、都市部の家裁は、人手不足のために、地方の簡易裁判所からの応援を受けているというのが現状です。家裁の新規受け付け件数は減少傾向にありますけれども、成年後見関係の事件の急増によって、家事事件の新規受け付け件数は増加しているわけです。複雑化もしています。

 法案は、基本方針で必要な人的体制の整備をうたっているんですけれども、最高裁は、政府が一体となって進めている定員合理化への協力の名のもとに、裁判所職員を減らし続けています。書記官を多少ふやしているということなんですけれども、現場の忙しさと長時間勤務を強いられている中で、書記官のメンタルヘルスによる休職もふえています。二〇一一年度の資料ですけれども、書記官の休職率〇・六五%。これは、教員もメンタルヘルスが問題になっているんですけれども、その教員の休職率〇・五七%を上回る極めて深刻な事態です。

 提案者にお聞きしたいんですけれども、家裁は体制がとれていない、そういうもとで、法案の実効性に甚だ疑問があると思うんですけれども、いかがでしょう。

○大口委員 今、委員の御指摘がございました。この法案の第十一条の第十号に、成年後見制度の利用促進に関する施策を推進するに当たっての基本方針として、成年後見人等の事務の監督並びに成年後見人等に対する相談の実施及び助言その他の支援に係る機能を強化するため、家庭裁判所、関係行政機関及び地方公共団体における必要な人的体制の整備その他の必要な措置を講ずることを盛り込んでいるところでございます。

 提案者としては、後見人の事務の監督を実効的に行うことを含め、今後、成年後見制度の利用を促進するためには、裁判所の職員の数を含む人的体制を整備することが非常に重要であると考えております。

○島津委員 現状では、その体制整備というのがなされるかどうかというのがなかなか心配なんですけれども。

 もう一つ、後を絶たない不正行為の問題です。

 後見人による被後見人の財産の横領、着服が社会問題化しているんですけれども、二〇一四年度のその件数、被害額をお聞かせください。

○村田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 平成二十六年一月から十二月までの一年間に、不正が発覚し、対応を終えたということで全国の家庭裁判所から最高裁判所が報告を受けた成年後見人等の不正件数は八百三十一件、被害総額は約五十六億七千万円となっております。

○島津委員 それだけの事件が起きているわけです。

 最高裁は、親族後見人による事件が多いことから、弁護士等の第三者を選任していくことなどの対策をとるとしていますけれども、先ほどの八百三十一件の事件があったんですけれども、うち二十二件、五億六千万円は弁護士等の専門職によるものでした。

 こうした状況のもとで成年後見制度の利用の促進を図るとなれば、一層、こうした被害もなくならないし、問題は大きくなってしまうと思うんです。利用促進を急ぐのではなくて、障害者権利条約の精神のもとに成年後見制度のあり方そのものをじっくり検討、吟味することが今求められているのだと思います。それは、第一義的には政府の責任において行われるべきだと考えます。

 提案者に改めてお聞きしたいと思います。

 最初にも質問しましたけれども、やはり民法そのものをこの機会に見直し、改革が必要ではないか、それでないと今起きている問題も解決しないと思うんですけれども、どうでしょう。

○大口委員 委員のお言葉でございますけれども、専門職の成年後見人は今、一生懸命やっておられます。ですが、もちろん不祥事もあります。ただ、専門職以外の親族等の不祥事の方がはるかに大きいし、隠れた被害が相当あるんです。ですから、やはりそういう不正を行った場合は資格を剥奪されるということが、専門職の後見人というのは大事であります。

 ただ、対応するに当たっては、やはりこれから七百万人の方が認知症あるいはその疑いが、二〇二五年にはそういう状況になるとか、あるいは、本当に精神上の障害を抱えた方の親亡き後ということもしっかり対応していかないといけない、こういう認識でおります。

 そういうことで、今回の法案は、現行の成年後見制度を踏まえつつ成年後見制度の利用を促進することを目的とするものでありますが、成年後見制度の運用を障害者権利条約の趣旨により沿ったものにしようとする規定を随所に設けています。意思決定の支援等について今後の議論の方向性を明らかにする規定であり、その重要性を御理解いただきたい、こう思っております。

○島津委員 本人の意思決定、いろいろな障害を持った方でもいろいろな手を尽くせば意思決定することが可能なわけですから、そのところを抜きにした促進というのはやはり問題があると思うんです。

 障害者権利条約の執行状況に関する審査は二〇一八年に予定されています。その年に合わせて、現行制度に問題なしとしていないと思うんですけれども、さまざまな団体、研究者からも疑問や問題提起がされていることを踏まえて、全面的な検討が必要です。そのことを政府に求めるとともに、そうした全面的な検討なしでの今回の利用促進は拙速に過ぎるということを述べて、終わります。

 

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